小林泰三「わざわざゾンビを殺す人間なんていない」

「ジャンク」の焼き直し?

わざわざゾンビを殺す人間なんていない。

わざわざゾンビを殺す人間なんていない。

やけに長いタイトルですね。でもってなんか根幹に関わるような名台詞ってわけでもないので何でこんなタイトルにしたのか?と言う疑問符が浮かぶ

パーシャルゾンビという概念が出た時なんというか「甲鉄城のカバネリ」でも見たのかと思いましたよ。でも主人公の恰好はどっちかというとイーオン・フラックスみたいな格好してそうだけど。

うーん。内容としては、人間が死ぬとゾンビになるようになった世界(「噛まれたからゾンビになる」というだけではない)で起きた殺人事件。
まあ、なんかナンセンス系ですね。トリックもまあ、たしかに成立するだろうけど、知ったらガッカリする系。
世界観がセンセーショナルな割にオーソドックスな推理トリック使ってますしね。
いやまあそうじゃないとまずいのかな。最近の流行りなのかな。世界観は珍奇だけど推理部分はちゃんとしてるってのがなんかその手のマニアから高い評価受ける基準点らしいけど、まあ自分はそれより、なんか仮定だらけの話で三段論法してるみたいな感じだったからイマイチ話について行けずに「???」だった。流れは理解できたが納得はできないような。


設定だけなら非常に興味深い。
この世界のはプリオン的なタンパク質によってゾンビ化が引き起こされていて、死んで免疫系が活動しなくなると、この「ウィルス」がゾンビ化を引き起こす。
ちなみに全人類がこのウィルスに感染している。
ゾンビに噛まれるとそこから大量のウィルスが投入されて、それによってゾンビ化が引き起こされるらしい。

「谷崎潤一郎犯罪小説集」

結構薄いので割りと早く読み終われました。3日ぐらいで(多分)

谷崎潤一郎犯罪小説集 (集英社文庫 た 28-2)

谷崎潤一郎犯罪小説集 (集英社文庫 た 28-2)


江戸川乱歩が影響を受けたと言われているらしい谷崎潤一郎の、ミステリー的、というか江戸川乱歩的な要素のある短編小説4篇を収録した本。文庫だが。表紙買いなのは否めない。
意外だったのが文体に影響受けてる程度のもんで実際は江戸川乱歩ほど完成されていないのでは?という感じだったんだけど、読んでみると意外にも完成度が高い。
江戸川乱歩の欠点であるへんちくりんなオノマトペを使った文章ではなく、それでいて陰葉さは伝わってくるという不思議な文章。乱歩が子供の文章だとしたらこちらはちゃんとした大人の文章という感じがする。

小林泰三「肉食屋敷」その2

「海を見る人」で小林泰三知った人に読んでほしい作品第一位

ジャンク

腐臭の小林泰三が遺憾なく発揮された作品。
ブラックジャックの鹿の話をウェスタンゾンビにしたような話。
とにかくグロと腐臭だらけで
あーなるほど、「獣の記憶」でやたら汚汁の描写に念が入ってたのもなんか、要するにそういうわけね。もともとそういうのがお好きな人な訳ね。と納得できる作品。
それにしても人の顔を体に埋め込んでるとかなんか「ゾンビパウダー」みたいだな。
声を失ったて辺りで人魚姫連想して余計にグロテスクさましまし。

小林泰三「肉食屋敷」その1

肉食屋敷

肉食屋敷

肉食屋敷

とある製薬会社の御曹司が研究所で太古の地球に落下した生物を蘇らせてしまう話。
まだホラーだった頃の小林泰三

へーそういえばこんな落ちだったね。でもなんか意味わかんなくない?
なんで、入れ替わったまんまのシュブ=ニグラスの仔の身体をそのまんま町中に入れたんだろう。ていうか、本体から分離可能なの?じゃあ訪ねてきた男は何だったの?小戸は死んでるし、コピーされた意識は本体から離れられない状態なんじゃなかったっけ?
単に「黄の印」っぽいのと「ダゴン」の「窓に!窓に!」やりたかっただけ?
この頃はそこまであからさまに元ネタ出すんじゃなくて分かる人には分かる的なクトルゥー神話タームを出していたらしい。
「C市」はあまりに想定通りの落ちすぎてびっくりしたぞ

妻への三通の告白

「手紙」ではなく「告白」
マネキンを愛しの女と思い込んで(意図的に)老後になるまで一緒に暮らしていた男の話。
似たようなドキュメンタリー風バラエティって「USO」かな。ダッチワイフを家族として暮らしている男の話。いい話風のドキュメンタリー仕立てのお笑いなんだろうけど傍目にはサイコ野郎にしか見えない。
て言うか、知ってから読み返すと第一の手紙の内容とか本当恐怖なんだけど。磯野よく理解したな。
て言うか、磯野と野原ってサザエさんクレヨンしんちゃんかよって。じゃあ「綾」って何から取ってんの。

獣の記憶

多重人格もの。
健常者に自分は多重人格だと思わせておいて、犯人に仕立て上げようとする話

これも冷静に考えるとわけわかんないんだけど。
犯人の女は捕まった状態で、自分がどうやって犯人にたどり着いたか?を解説してんの?意味わかんなくない?こっちの女の方が多重人格なんじゃない?
なんとなく「記憶破断者」のラストから続きそうな気がしてたけどそうでもないね。あっちは前向性健忘症でこっちは暗示にかかりやすい。
こっちの女は白っぽい肌に赤い口紅と赤いマニキュアがポイントらしい。あっちは黄色い顔だったような。
まあ、この主人公が被害者だってのはわかったけど、あのクソみたいに散らかったゴミ屋敷みたいな部屋は何だったの?


獣の記憶 (創元推理文庫)

獣の記憶 (創元推理文庫)

なんか意外に小説としての完成度高くて驚くわ。デビュー後4冊目の段階でこれ?前何やってたの?じゃあ最近の不思議の国のアリス(「アリス殺し」のことではない)みたいに色々破綻して稚拙な感じがする小説は何なの?
最近のAmazonレビューとかに「小林泰三にこういうのは求めてない」って変なこと言うやつ居るなって思ってたけど、この辺の作品読み返してみると何となくそう言いたくなる気持ちもわかる。その頃はまだ数篇しか出してない段階で作家の方向性とか何が分かるんとか思ってたけど。個人的には小林泰三の小説って分かりやすいってのが味噌であって、言うほど面白いって作品そんなになくない?って思ってたから。でもまあ、こういう変化って不可逆なものだからこういうものを書くことは多分二度と出来ないだろうね。個人的には「アルファオメガ」のあたりからなんか方向性変わってつまんなくなってきた気がするけど。
近親者か知り合いに「お前の話はわかりにくい」って言われでもしたのか過剰に変な解説入れることが多かったし。SFジャンルだと逆に解説しなさ過ぎて意味わかんない部分があったし。そしてその割にお話はなんかテンプレなんスよね。

ストルガツキイ「願望機」その1

「ストーカー」がリアル書店に売ってなくて、仕方なくこちらから

願望機

願望機

願望機

映画「ストーカー」のボツ脚本。っても映画見たことないんだけど。
ゾーンに侵入した三人の話。一人は作家、一人は物理学者、そして最後がストーカー。各人何かしら思惑あってゾーンまで行くつもりだったらしいが結局何もせずに帰ってくる。

「アリス殺人事件」その1

花とアリス殺人事件にでもインスパイアされたのか?

北原尚彦が入ってると聞いて手にとって見たけどまあ…

有栖川有栖

まあ、初っ端から「有栖川」ぶっ込んでくるセンス。あんま好きじゃないけど。
作者大阪人?関西弁デフォルトの主人公とか聞いたことないし、第一アリスって耽美的な雰囲気の名前を台無しにしてる気もするけど。て言うかアリスとか言う名前の割にいい年こいたオッサンってのが……いやーキツイっす(素)
何やんのかなー、天体系の話が出てきたから、犯人は星の動きから隕石か、土星からの超重力砲で地球崩壊するのを知らせるためにあんな逃亡でもしたのかなと思ったけど思ったよりしょぼかったね。

伊藤計劃「虐殺器官」

良くこんな物が受けたものだ

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

というのが第一印象。
なにせジャンルがSFである。あの現実を一切見ることのない、常に虚構のみに彩られているジャンルにこんな生々しい戦地の描写など盛り込んで大丈夫なのだろうか?と言うより、輝かしい未来像しか提示せず、そうやって清潔で、人間の性善説を信じて、より理性が高次の段階になれば争いはなくなり、人々は穏やかな生活を送れるなどと無邪気に信じ込んでいる話を好む連中にこの話が受けるのだろうか?
ちなみに自分的に受けた印象はこの作者海外FPS系のゲーム好きそうだなぁと言うこと。若干未来的な軍事アイテムと、相変わらず人間が戦争に従事していると言うシチュエーションとか。
要するにSF的要素というのはこの手のゲーム要素を現実的に成立させるために存在していると言っても過言ではない気がする。
とは言っても思いつくゲームはSTALKERかBattleFieldぐらいだが。

ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)

ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)


まあ、ネット上の発言で一番声がデカイものと言えばゲーマー連中のものだから、そういう連中の支持を得られれば、上位層の支持がなくても売れるのかもね。「オーバーロード」的な。


まあ、内容はとにかくグロい。最初から死体のオンパレードである。
小林泰三とか田中みたいなB級なグロテスクさと違ってそこには残酷さがある。

痛快なのは、大国対大国あるいは帝国VS共和国みたいな古臭いSF的な世界観ではなく、現実世界と地続きになっていそうなテロVS国家と言う世界観を持ち出しているところですかねぇ。まあみんなもいい加減飽きてきてたんだろうね。だから受け入れられた感はある。とは言え、3.11が起こったから今度はそっちがトレンドになってる印象もあるが。とは言え現実のアメリカを見ているとまさにこの小説のようなアメリカ至上主義の路線を進んでいるように見えてゾッとしてしまうこともある。