フレドリック・ブラウン「3、1、2とノックせよ」

読み終わりはしたが……。
うーん。まあ、こんなモンかなぁ。最初の方には、連続強姦殺人魔とレイ・フレックが出会ったとき何かが起きる!的なノリだったのに、いつまで経ってもレイ氏は夜の町を方々ほっつき回って金策に走りまわるばっかりで、一向に強姦魔とは出会わない。
やっと出会ったと思ったら、もう物語終盤。もうなんか露骨に水増ししてるなぁってのが良く分かる。
特に、ドリー・メイソンとマック・アービーのお二方は一体何の為に出てきたのやら。特にラストに絡んでこないんだよねこの二人。
ハッキリ言って話が動きはじめるのは全体の2/3が終わった辺りからで、それまではレイ・フレック氏が延々と金策しようとして失敗する話でこれならわざわざ長編にしなくても……と思ってしまう。
それにしても、このレイ・フレックと言う人は何というかホントにかわいそうな人ね。ああも延々とどうにもならない様を見せ付けられると、ここいらで一発ハッピーエンドにして欲しいと思ってしまう。


あと、「痴漢」って名前のサイコ野郎はやっぱり最後まで「痴漢」のまんまでした。
マジで何で痴漢なの。
最後の解説部分に「痴漢の夜」(Night of the Psycho)なんて訳文が出てくる辺り、Psychoを痴漢と訳してるのか?
その文章の中じゃ「気違い」に「サイコ」ってルビ振ってたりするのにね。意味がわからんね。1960年当時じゃ、そういう連中の事は「痴漢」と呼ぶのが一般的だったのかしら?
どうでも良いけど再販するんなら絶対この「痴漢」は変えるべきだと思うわ。マジで。現代的に見たら絶対勘違いされる用語だし。意味が通じない。


ちなみに「3,1,2とノックせよ」というのは、「痴漢」に対する用心のため、レイとその妻ルースの間で取りきめたもので、レイが帰ってきたときには「最初に三回、次に一回、最後に二回」とノックするという符牒。ま、ただそれだけですな。

ストーリー

メディアからは「痴漢」と呼ばれている連続強姦殺人魔。渾名もマヌケなら、行動もマヌケだった。
まず、電報と偽ってターゲットの家のドアを開けさせ、そこから侵入するという方法を採るが、ドアチェーンがかけられていたため、失敗。その場から逃走する。
彼が今まで起こした2件の強姦殺人事件で、町中が恐慌状態に陥り、女達は皆ドアチェーンを付ける様になったのを知らなかったらしい。舌打ちをしてやり方を変える事にした痴漢。今度は窓から入ろうとするが、こじ開けるのに失敗して中の住人に気付かれ通報されてしまう。
手をニギニギさせて「もう我慢出来ない」アピールをする痴漢だが、こう町中が用心していてはどうしようもなく、仕方なく町中をさまよう。


一方のレイ・フレック氏は馬券の元締めのジョー・アミコから今まで付けで溜まっていた分の賭けの借金を返せと嚇される。
しかも間の悪い事に、アミコの事務所に行く前に2名ほどから預かっていた馬券を買う金をアミコに渡すのを忘れてしまい、ボコられた揚げ句に今晩中に金を返せといわれてしまう。でなきゃお前の素行を仕事先に知らせるという脅し付きで。
仕方ないのでセフレのドリー・メイソンに金を借りて、そこからポーカーで一発巻き返そうと無駄な考えを起こすレイ。
案の定ドリーはそんな金は貸してくれない。追い詰められたレイは、ドリーの宝石箱から宝石を盗んでそれを換金して賭けの資金にしようと企てる。が、目論見より早く盗難がばれてしまい、ドリーの呼んだ本命の恋人マック・アービーによって嚇されて1000$を今晩中に支払う羽目になってしまう。


ベニー・ノックス。
父親のキリスト教的教育の所為で、原罪の考えに取り憑かれてしまい、他人の犯した罪を全て自分の物として考えてしまう知恵遅れ。
案の定今回の「痴漢」事件に関しても自分の仕業と思い込んでおり、自分を逮捕する様警官に言うが、それまでにも何度も同じような事を繰り返しているベニーの言葉は信用されない。だが、ベニーの精神分析をしたいと申し出た医師のとりはからいによりひと晩留置所で過ごす事になる。


一方どうしようもない状況に追いこまれたレイ・フレック。たまたまバーで対面に座った男の手の動きを目に留める。それは、かつて自分が目撃した「痴漢」の手の動きと同じだった。


ここらで2/3を消化。短編だったら2ページ以内で説明されて終わりそうな話を延々続けるんだからたまったモンじゃないです。「もう止めて!レイの残金はゼロよ!」と言いたくなるぐらいレイ・フレックがフルボッコにされる状況が延々続くという。読んでて嫌ンなる展開ですわ。
しかし、「殺人プロット」内のラジオドラマ「ミリーの百万ドル」みたいに、今の不幸が解決しないうちから次の不幸がふりかかってくるって展開はアメリカ国民の琴線に触れる物語なんでしょうな。自分はそんなの見たいとは思わないが。


で、ここからレイ氏はかつて考えたが却下した妻を事故死させて保険金をゲットするという計画を再燃させるわけですな。