東雅夫/編「屍鬼の血族」

屍鬼』の後に出版されたモンだから、てっきり単に名前借りただけの中身のないアンソロジーかと思ってたら、実は、『屍鬼』より前の1990年に「血と薔薇のエクスタシー」という名前で出版されていた物らしい。
その後、『屍鬼』が世に出てから「血と薔薇のエクスタシー」を増補改訂した「屍鬼の血族」として出版したということらしい。


まあ、確かに短期間に集めたにしては妙に量が多いし、*1


しかしまぁ、中身がそれほど充実してるかというと……。まあ、どっちかというと参考資料的な意味あいが大きいから面白さという点では劣る。
しかも、戦前の作家の作品はそれなりに資料として貴重ではあるうが現在存命中の作家の作品となるとそれほどでもないし。
どうも、どっかで見たようなものばっかりのような感じがするんだよね。
*2


「吸血鬼」江戸川乱歩

エッセイだけどそれなりに参考になる。
実在した吸血鬼に関する知識云々とかが。
この作者には同名の長編もあるらしいが未読。まあ、事件の手口や犯人が吸血鬼的なわけじゃないみたいなんで期待しない方が良いみたいね。

「吸血鬼」中河与一

精神的吸血鬼?というヤツ。
直接的な表現は使わずに、幻想的な表現をしている

「吸血鬼」城昌幸

エジプトの吸血鬼。ですか。といってもファラオとかでなく原住民の女ですが。まったく人道上怪しからん事で。
最後のオチは解釈に困るな。一体どういう事なの

「吸血鬼」柴田錬三郎

精神病理学的な部分がなんとなく、木々高太郎っぽい感じがする。
吸血鬼自体は登場せず、
死んだ妻が棺桶から這いだして夫とまぐわうという妄想に取り憑かれた男の話。
医者の加田さんが彼を救うために死んだ妻は吸血鬼で君の血を吸いに来てるんだと吹き込むんですな。
まあ、タイトル「吸血鬼」でまんま本物の吸血鬼出てきたら情緒もへったくれもないわな。
物としては悪くないと思う。

「吸血鬼」日影丈吉

以前、国書刊行会の「書物の王国」で読んだことがあるような。
日本で吸血鬼っていうとやっぱこういう東南アジアの異国的な雰囲気の物になるんだろうか。
日本の敗残兵が終戦後のインドネシアであった女吸血鬼の話。

「ドラキュラ三話」岡部道男

普通につまらない。
あいにくと、自分は映画からドラキュラ系に入った、というワケじゃないので、この作者の心情は理解しがたい。

「血霊」半村良

イマイチ、原因とそれを解決する手段が不明なんで尻切れトンボで終わってるって印象が

「干し若」梶尾真治

まあ、話としては面白いのか。
吸血鬼を退治したと語るラーメン屋の連中が気ちがいじみてるのは流石というか。

いい加減ここらで読むのがいやになる。

「週に一度のお食事を」新井素子

吸血鬼になることをポジティブに捉えて自分から吸血鬼になろうとする人達の話。
まあ、なんか無駄に吸血鬼化を罪悪と捉える人物が多いけど、特性だけ見りゃ人間より吸血鬼の方が便利よねっていう。
しかし一回吸っただけで即吸血鬼化ってのは異常にスピード早いね。それに、そんなに早いのならなんで今まで広まらなかったのっていう疑問が。
まあ、そこは最後のオチにかかってくるんだろうけど。

「吸血鬼の静かな眠り」赤川次郎

別荘にやってきた家族を襲う吸血鬼の恐怖。という、わりとよくある感じがする話。
最後の一行でちょっとぎょっとさせられるような何かがあるけれども。
昔読んだ戯曲形式の吸血鬼ストーリーの方が面白かった気が……

「仲間」三島由紀夫

これ、吸血鬼小説?
外套を絶対取らないとか、子供なのにタバコ吸ってるとか、タバコの火が外套に移ったのをジッと見てるとか。
どうもなんかの寓話っぽい感じがするんだけど。

「ヴァンピールの会」倉橋由美子

貴族的な吸血鬼ってやつの典型的像ですかね。

「影の狩人」中井英夫

なんか、須永朝彦の「就眠儀式」を彷彿とさせるような。
この人は例の有名な「虚無への供物」の作者なので内容も耽美的。まあ、こういうのも「日本の文化*3」的な吸血鬼ではあるわな。

「契」須永朝彦

「日本の文化」的な吸血鬼その2
他にも「神聖羅馬帝国」とか「就眠儀式」とか色々ありますね、この作者は。
しかし、出てる小説がどれも単行本で内容量も少ないというマニア向けな扱いの代物なんで集めるのは大変か。
下手に単行本集めるより、「須永朝彦小説全集」でも買った方が良いのかも知れないけど結構値が張る。
『泰西少年愛読本』とか表紙がアレ過ぎて借りるのが恥ずかしかった。


解説によると、こういうのは中井英夫系統らしいんで、これ系好きなら中井英夫の小説読むのも良いかも知れない。

「D-ハルマゲドン」菊地秀行

ああ、「D」ね。と名前聞いただけで拒否反応がでる。まあ、Dシリーズは未読なんでスルー。
数行読んでみたけど明らかにそのシリーズ読んでること前提の作品なんで読む気にもならん。

「一本足の女」岡本綺堂

岡本綺堂らしく江戸時代を舞台にした怪談という丁。
ちょいと妖艶さが足りないような気もしないでもないかなぁ。

「夜明けの吸血鬼」都筑道夫

セックスが黒いって毛がボーボーって事ですか?単にヤリマンで黒くなってるって事?
15歳の少女相手に「まだ子供だから」って拒否するってのも変な話よね。金払ってでもやりたがるヤツがいるのに。

「かわいい生贄」夢枕貘

うーん。これはすごいな。
マジモンの中年でしかもロリコンの吸血鬼かぁ。15歳とかのエセロリじゃなくて小学生のガチロリターゲットな辺りがすげぇ。

「愛撫(なだめ)」大原まり子

うーん。なんか文章といい設定といいラノベレベルじゃん。と、数ページ読んで先を読む気なくした。
日本で独裁政権とか山田悠介かよと。

「吸血鬼入門」種村季弘

吸血鬼入門といいながら思い出話っぽい内容で全然参考にならない気がするが。

解説 ヴァンパイア・ジャパネスクの系譜

何気にここで「屍鬼二十五話」の「屍鬼」に関する部分の引用が。下手に『屍鬼二十五話』なんて借りてくる必要なかったんやな……

最後のページに『屍鬼』登場のキャラは日本小説に起原があるだろうみたいな事書いてあるが……

柚木……「かわいい生贄」
千鶴……「吸血鬼」中河与一
征四郎……「血霊」の額田

ぐらいかな。沙子の原型っぽいのっていなくね。少女吸血鬼ってあんま見ないんだけど。
「夜明の吸血鬼」のマリコはグロマンだし

*1:屍鬼』は1998/9。『屍鬼の血族』は1999/出版

*2:あいにくと異形コレクションの「伯爵の血族 紅の章」は読んだこと無いのでなんとも言えないが、もし読んでたらこれにも劣ると言ってたのは間違いない

*3:衆道的な意味でな