江戸川乱歩「黄金仮面」

江戸川乱歩全集 第7巻 黄金仮面 (光文社文庫)

江戸川乱歩全集 第7巻 黄金仮面 (光文社文庫)


そういえば竹本健治とかいう人が解説で「お前らもみんな子供の頃は少年探偵団読んでたろ」みたいなこと書いてるけど俺は読んでねぇな。絶対ありえない。
いやなんか、大人向けのものならまだしも、子供向けの少年探偵団は文章気持ち悪くてね。同じ図書館にあったシャーロック・ホームズと比べても、アンフェアさが目立ったね。
「少年探偵」は第三者視点で書いてあるのだが、「明智小五郎」と明示されていた人物が、後になって「明智小五郎の偽物」だったって言われた辺りで読むのやめたわ。いくらなんでもそれはないだろと。お前子供なめてんのか。ホームズはワトソンっていう人間を通した一人称の描写だったから、まあ、錯誤があっても問題ないが、絶対的な神の視点で嘘を書いちゃいかんだろうと。ここら辺、乱歩が少年探偵団シリーズを所詮子供向けとしか認識してなかった証拠ですよね。あと説明が嫌にくどくどしいし。本当にこんなの読んで喜ぶのは幼稚園か小学校低学年ぐらいじゃないのか。小学生高学年になったら読む気失せるぞ。
でも、小学校低学年でこんなの読んでる子供とかちょっと不健全すぎやしませんかね。なんか文章描写からねっとりとしたイヤラシさが溢れてるし。読んでて気持ち悪かった。


で、本編はどうも、怪人二十面相っぽい感じの奴ですけど、わりと一般向けなせいか乱歩にしては難しい漢字意味のわからない言葉が出てきますね。
絨毯をジュウタンって書くぐらいならもうちょっと他のことに気を使えよと言いたくなるけど。
黒岩涙香レベルになると難しい文章は仕方が無いと思えるが江戸川乱歩みたいな大衆作家が……。
まあ、戦前だからしょうがないかね。
長さの単位が尺だったりするし。
雰囲気が怪人二十面相みたいな戦後っぽい感じなのに妙に古い。


なんで今頃こんなの読んだのかというと、黄金仮面の正体であるルパンの人種差別っぷりを一応確認しときたかったから

「だがね、ルパン君、君を笑ってやることがあるよ。さすがのルパンも少しもうろくしたなと思うことがだぜ。というのは、君が人殺しをしたことだ。鷲尾邸の小間使いを殺したのは、君の部下の専断かもしれぬ。だが、僕を射撃した。それはさいわい失敗に終わったが、浦瀬の殺人だけはどうしてものがれることはできまい。君は血を流したのだ」
「浦瀬は日本人だ」ルパンは傲然として言いはなった。
「おれはかつてモロッコ人を三人、一時に射ころしたことがある」
「畜生っ」明智は激憤した。「君にして、白色人種の偏見を持っているのか。じつをいうと、僕は君を普通の犯罪者とは考えていなかった。日本にも昔から義賊というものがある。僕は君をその義賊として、いささかの敬意を払っていた。だが、今日ただ今、それを取りけす。残るところは、ただ唾棄すべき盗賊としての軽蔑ばかりだ」
「フフン、君に唾棄されようが、尊敬されようが、わしは少しも痛痒を感じぬよ」
「ああ、アルセーヌ・ルパンというのは、君みたいな男だったのか。僕は失望しないわけにはゆかぬ。

まあ、欧米の小説をよく読んでる乱歩らしい所ですよね。
この時代以前のイギリスやなんかの小説ってとにかく白人至上主義、キリスト教バンザイみたいな感じで、何を根拠にこいつらこんなに自信満々なんだ?と言いたくなるものが多い。
まあ、引用文にあるとおり、ルパンは「虎の牙」でモロッコ人を殺している。白人にあらずんば人にあらず。人じゃないから人殺しにはならないよっていうモーリス・ルブランの白人至上主義っぷりがよく出てますね。