グレッグ・イーガン「プランク・ダイブ」その1

どこぞの漫画で言っていたように、売れてるって割には理解不可能な用語ばっか出てきて読みにくいっすね、イーガンは。

プランク・ダイヴ (ハヤカワ文庫SF)

プランク・ダイヴ (ハヤカワ文庫SF)

本当にみんなこんな広範囲に渡る学術用語だか科学用語だかを、全部ちゃんと把握出来てるのだろうか?ぶっちゃけ「順列都市」レベルならともかく、脳科学系とか純粋数学系とか量子力学(量子論はまだ分かる)とかブラックホール系が入ってくると途端に意味が分からなくなるよ。

そうやって分からん分からん言ってたら大抵「分からん所は読み飛ばせ」みたいなこと言われるけど、それが可能なのは、オチに科学用語が出てきてない時だよね。途中の工程に出てくるだけだったらそれでいいかもしれないけど、もしオチに関わってくる重要な解説すっ飛ばしたらどうしようも無くなる。落ちが理解できないならもはや読んでる意味すら無い。
そうでなくても分からん所すっ飛ばしてるせいで全く話が面白くもなんともないと言う事態に陥っているのに。もうこうなってしまうとSFってジャンル自体に忌避感出るのは如何ともし難いよね。理屈でどうにかなるレベルじゃないし。せめて京極夏彦なみにわかりやすく解説してくれたらいいのに、SFときたら「読者が知っている」事前提で話を進めるんだもの。そりゃ嫌になる。
イーガンファンはよくこれだけ多領域に渡る事項を理解できているものだと感心したくなるし、こんだけの大量のネタを仕入れてオチに流用できるレベルに理解できて作品に出来るイーガンは一体何者なんだろうと言いたくなる。SFなんか書いてないでその知識と頭脳をもっと有益なことに使ったらどうなんだろう…
ええ、ええ。何度も言いますがオチに科学知識絡んでる時点でもう読み飛ばし無理だし、「途中をすっ飛ばしても、理解できなくても話自体が面白いので十分楽しめる」なんてのは単なる与太話にすぎないので。裸の王様見てる気分すね。

クリスタルの夜

これもオチが意味ワカラン系。結局爆発オチってことでいいんかしら。コンピュータの仮想空間内で新生物をシミュレートして、その生物たちを進化させ人工的に知能を発生させ新しいCPUを作らせようとした男の話。仮想生物たちに自分が仮想空間で生み出された事をわからせておいて、現実空間にコンピュータ内から操作可能なマニピュレータをセット。こうすることで仮想生物たちに新たな領域として自分たちの住める環境(高速処理CPU)を作らせようとしたが、仮想生物たちはその装置を使ってビッグバンを起こして新しい宇宙を作り、更にブラックホールを発生させてその宇宙へ自分たちの住んでるCPUごと放り込んだ。
ぐらいの理解しか出来なかった。
よく分からんのがそうやって生み出された(常温ビッグバンだっけ?)宇宙はどこへ行ったのかという部分でね。
あー、理解できるのは宇宙論でもやってる研究者ぐらいじゃないの?あるいはそこら辺に詳しいSFマニアとか。
そもそも「フェイスブックみたいなSNS作った大金持ちが、進化の過程に必要な淘汰で仮想生物殺すことに心を痛める」っていう感覚が理解できんわな。ウシジマくんみたいな感じですかね。人を人とは思わないけど、自分のペットには愛情注いでるっていう。

エキストラ

これは随分分かりやすいね。脳に欠陥のある自分のクローン(エキストラ)作って、脳移植しようとしたけど、全脳移植とかしたら脳と体の神経結合において不具合が出るので、記憶領域(おそらく大脳)だけを移植した所、小脳の辺りにも記憶がバックアップとして保存されていて、記憶が移ったわけじゃなくて二分割されただけでしたって話。まあ、元の体の方に移植された「エキストラ」の脳が言葉の意味を理解できないような処置されていたおかげで、目覚めはしたものの言葉を話したり、周りの人の会話を理解することは出来なくなっていたので種々の問題は起きなかったけどね。
手塚治虫の「火の鳥 生命編」あたりの嫌な恐怖を感じますね。

暗黒整数

なんかタイトルからすると、未だ発見されてない整数を探す話みたいな感じ受けるけど、当然そんなことはない。どちらかというと数学の証明を行うために作られた型の一つでしかないらしい。主題は異界からの不可解な攻撃に人間側の3人が、これまた不可解な方法で対抗するというもの。最初っから説明がわけわからなさすぎてこれまでの「いくつか分かる用語のうちに唐突に不可解なものや概念が出てきて混乱する」みたいなのが多いいつものイーガンとは多少毛色の違う作品。円城塔作品読んでる気分。
主人公たちが他の次元か、並行宇宙に存在する連中だかと交信に成功してから十年、「彼方側」(敵側の時空)からの連絡で「此方側」(主人公側の時空)の誰かが「彼方側」に攻撃を仕掛けている事がわかった。彼方側からの依頼に従い犯人探しをする主人公。犯人見つけてとりあえず攻撃ができないように手を打つが、相談の結果彼方側には詳細は伝えずに終わる。数週間して唐突にウォール・ストリートの株式相場が混乱。これが彼方側からの攻撃だと気づいた主人公側は「彼方側への攻撃を行っていたプログラム」を改良したものを使用して彼方側へ攻撃を仕掛ける。結果、その御蔭かどうかは知らないが「彼方側」から連絡があり向こう側からの攻撃は中止されたと連絡が入る。最後は向こう側からもこちら側からも互いに相手を攻撃できないような手段を取って問題は解決したのだった。
これには「ルミナス」という前日譚が存在するらしいけど、読んだところで果たして理解出来るのかは不明。
古いノートパソコンを車に乗せて相方とお出かけしてる最中に、アップルウォッチに入った通知を見て急に相方置いてきぼりにして車走らせて仲間と連絡取りながらノートパソコンの独自OS起動させながら「クソっ、もう彼方側からの攻撃が始まったのか」みたいなシーンはなんとなく映画に使えそうなシーンだなと思いました。