小林泰三「海を見る人」その2

海を見る人 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

海を見る人 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

天獄と地国

例の長編版『天獄と地国』の冒頭部分(落穂拾いの連中が村に入って、例の女が死ぬまで)。
まさに、『天獄と地国』の冒頭部分で長編版と比べても変更点はない。本当に『天獄と地国』から冒頭部分だけ抜き出したとしか思えない様な内容。
この分だと、本当に中途半端に終わった「時計の中のレンズ」なんかも実は長編の冒頭だったってのがあり得そうだなぁ。
天獄と地国』は外側から内側に行く話だから、元はてっきり、上から風が吹いてきて居て、段々重力が弱まってるから反対側に行こうとする話が短編版なのかと思ってたけど全然違ったね。そっちは、『目を擦る女』の「空からの風が止む時」だったらしい。

キャッシュ

恒星間宇宙船で冷凍睡眠するといろいろ問題あるから、意識を仮想空間上に置いとく様にしたからバグがあってメモリ食いつぶしてたでござる
まあ、割と面白い話ですね。
どことなく神林長平っぽいと言うか。
ところで最後の、アリスの断片を探してるとか言ったけど、ただ何日かの事件に付き合ったぐらいで惚れたのか?自分の設定した姿なのに?飛んでも無いオナニストだな。
それとも、元々「アリス」なる恋人がいて、たまたまあの評議員にその姿を着せたのか…

母と子と渦をめぐる冒険

プラズマ状の知性体の話。
なんと言うか、ガチすぎて引く程のハードSF。っぽい代物。
こいつらが人間だとか言ってんのは、『ΑΩ』で、ガがあの同化した地球人連れ帰った事に由来してるのかな。プラズマ知性体が人間と混ざって自分たちが人間になったと思ってるとかなのかね。

海を見る人

ブラックホール事象の地平線を越えたらどうなるかという思考実験を小説にしたモノ。
なんか、これ、若干怖い気もしますね。
大体、そのじいさんに話しかけた人物はカムロミを見る事はできなかったんだから、もしかして、この爺さんの妄想と考える事もできるわな。
それにしても、これに出てくる奴らは人間なのかな?
わざわざ<人の子>なんて言い方してる辺り、もう人間の姿してそうにないよね。
人の子って事はロボットなのか、それともあの世界に適応できる様に作られた生き物か。

目が大きいと、よく埃が、目に入るのよ

とか

彼女の体はしなやかに変換を始めます

とか
変換って事はやっぱりプラズマ知性体系なのかね。
世界観にしても、海が事象の地平線とか、ブラックホールなの?


それにしても、最初読んだ時は、この話を表紙にしてるんだろうと思ったけど、

ごらんなさい。カムロミは永遠にわたしの法被を着続けてくれるんですよ。

カムロミの両親から恨み言を聞かされると覚悟していましたが、二人はわたしの顔もはっきり見ず、ただ法被はもう返せなくなったとぽつりと謝ってくれただけでした。

と言うところからすると、
カムロミは法被着て海に身を投げたんだから、
表紙のレースの服着てる様なのは話に合致しないよね。
全くダメダメな絵師だな。誰だよ表紙絵描いたの。これ結構重要なんじゃ無いの?
正直、この本の完成度なら、こんなひどい絵じゃなくて、文庫版『天体の回転について』のKEIにでも描かせたほうな、よっぽどマシだったんじゃないだろうか。
正直、『天体の回転について』は表紙絵は単行本も文庫もやたら気合入ってる癖に、中身はそれ程でもないですからね。中身がイマイチだから表紙絵で引きつけようとしたんでしょうか?

全ての時間線を人類が思い通りにできる様になった話。
何かこれも、思考実験を小説にしたタイプの話ですね。
まあ、あの辺の知識持ってたら楽しめたんだろうけどね。
ストーリーは手塚治虫の漫画にあった話と似てますねー。
まあ、よくある話なのかもしれんが。
ま、本書の短編の間に挟まれてた文章の意味がわかるって点で貴重でしたね。