小林泰三「人造救世主」

このオチはどっちかというと、異色作家短編集とかそこら辺の奇妙な味系の短編SFの類いなんではなかろうか。そこら辺に馴染みがない人は、ピンと来ないのかもしれないが。


白人、背が低い、ロンギヌスの槍、名前がヴォルフ。ここまで聞いてアドルフ・ヒトラーを連想しない奴はいまい。
なわけでヴォルフがヒトラーのクローンだっていうのは割かし早い段階でわかっていたので、
「俺は英雄になるんだ」
という台詞や
冷血漢と言われるシーンや
「俺は潔癖だ」
って台詞や
でまあ、笑ってしまうわけで。
そもそも、世界を救うヒーローにアドルフ・ヒトラーをチョイスするのがなんとも皮肉ですな。
一人殺せば殺人者だが百万人殺せば英雄だという言葉もありますし。


喜劇と悲劇は紙一重だと言いますが、この場合、
ヴォルフがヒトラーのクローンだと知った瞬間、態度一変。
ジーンは蹴り入れたり。
ひとみはヴォルフの顔見て嘔吐したり。*1
ヴォルフの一言「信じてくれていい。俺は潔癖だ」
潔癖の意味が違えwww
何て辺りからしても「ここ笑うとこでしょ?」としか言いようがないわけで



結局、「あんたなんか、汚らしいヒトラーのクローンじゃないの!!」って台詞を最後に持ってくる辺りで、やっぱりこれは奇妙な味の短編に属するんだろうなと
正直、「玩具修理者」もこのタイプのオチな気がするのだが。
これでオチが酷いとか言ってるのってP.K.ディック原作の映画「クローン」見て「物語として破綻してる」って言ってるのと同レベル。
本人はオリジナルとクローンである自分は別人だといいながらも、オリジナルと同じようなところ目指してたり、何より結果としてオリジナルと同じような大量虐殺者になってしまっているという皮肉*2
そもそも、ヒトラーのクローンをヒーローに据えるということ事態が一種の皮肉。ここに気づかないと単なる悲劇の主人公でしかないんだろうね。
ていうか、ヒトラーがカウボーイハット被って貫頭衣見にまとってる姿思い浮かべてくださいよ。笑うしかないでしょw映像化絶対不可能だなww
アストンがアインシュタインだとわかってたりするとp164の

アストンは空を仰いで舌を大きく出した。「べー!!」

なんて、もうタチの悪い戯画でしかないわけで笑うしかないw
しかも、これに出てくる「戦闘員」ってのが「ロンギヌスの槍」に着いた血のからそのまんま作られたクローンって訳で、つまり……
すさまじくタチが悪いwww


P47

こいつらは超能力を発現するゲノムから作られたクローンなんだ。オリジナルは復活に数日を要したが

P70

あれは最も初期の試作品だ。数々の奇跡を行った聖人の遺伝子に人工的に合成した超能力補強遺伝子――仮にターボ遺伝子と言っておこうか――を注入する処理をして、そのままクローンにしたものだ。

P70

MESSIAHは聖人の遺伝子をそのまま使うことを諦め、強い個性を持っていた過去の人物たちのゲノムを収集し、そこに聖人のゲノムから抽出した超能力遺伝子を注入したんだ

ロンギヌスの槍だ。聖骸布の方はとんだ食わせ物だったが、こっちは本物だったようでわずかに残った血液の痕跡から遺伝子が抽出された。だが、それだけでは、野望の実現には不足だという事がわかったので、別の遺伝子を手に入れようとした訳だ。

ところで、これ続編でるの?
なんかここまでうまく落ちてるのに続き出すのかという感が……。

*1:ていうか、顔見て吐くとか酷すぎだろwww

*2:百万人殺して英雄になったね!